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自由の効かない身体から浮かび上がる音楽家の姿@Opus|Ryuichi Sakamoto





この坂本龍一氏の最後の演奏を収録した映画「Opus」のテーマは身体性であるという。(こちらの監督インタビュー記事より)


音楽ときいて身体といえばダンスミュージックが想起されるが、本作品の音楽はピアノ・ソロであり、曲調も内省的でテンポも原曲よりかなりゆっくり目にアレンジされている。


そこには視聴者をリズムで乗せて共に楽しむというエンターテインメント性は感じられない。むしろと淡々と時間が流れていく。


ではこの演奏における身体性の本質はどこにあるのだろう。


Opus
Opus | Set list

癌の治療を続ける中でやせ細った身体、指先に目を奪われる。人の身体(外見)の中で最も重要なパーツともいえる表情の変化も特筆点といえる。


眉間に皺を寄せて真剣に鍵盤を注視している時もあれば、自ら奏でる音を楽しんでいる表情の時も見られる。


ゆっくり減衰していくピアノ音や、プレペアドピアノの不協和音を聴き入っている姿も印象的だ。


そして真の意図は定かではないが、同じフレーズを何度も弾き直すシーンも収められている。


ここで浮かび上がってくるのは、病で身体の自由が効かなくなったからこそ明らかになる、表現者としての姿。身体が不自由だからこそ、その裏にある思想・感情を包み込む魂の存在が浮かび上がる。


この映画で表現されている「身体性」とは、坂本龍一という音楽家のリアルな姿そのものなのだろう。

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